『論語』学而篇解説

01 子曰:「學而時習之,不亦説乎?有朋自遠方來,不亦樂乎?人不知而不慍,不亦君子乎?」

Zi3 yue1: “Xue2 er2 shi2 xi2 zhi1, bu4 yi4 yue4 hu1? You3 peng2 zi4 yuan3fang1 lai2, bu4 yi4 le4 hu1? Ren2 bu4 zhi1 er2 bu4 yun4, bu4 yi4 jun1zi3 hu1?”

『新華字典』を引いていただくと、だいたい分かると思いますので、分かりにくいところ、問題のあるところだけ、説明します。『経典釈文』(「釈文」と略称)による説明が主体です。

「説」は「音悦」(釈文)。

「樂」は「音洛」(釈文)、『新華字典』は「一 le4」「二 yue4」の二音ですが、その前者です。

あとは、繰り返し口に出して読み上げ、暗誦してください。一日ひとつのペースで進みましょう。

02 有子曰:「其為人也孝弟,而好犯上者,鮮矣。不好犯上,而好作亂者,未之有也。君子務本,本立而道生。孝弟也者,其為仁之本與!」

You3zi3 yue1: “Qi2 wei2ren2 ye3 xiao4ti4, er2 hao4 fan2 shang4 zhe3, xian3 yi3. Bu4 hao4 fan4 shang4, er2 hao4 zuo4 luan4 zhe3, wei4 zhi1 you3 ye3. Jun1zi3 wu4 ben3, ben3 li4 er2 dao4 sheng1. Xiao4ti4 ye3 zhe3, qi2 wei2 ren2 zhi1 ben3 yu2!”

「有子」は、孔子の弟子、有若。

「為人」の「為」は平声、「為仁」の「為」も同じ。

「孝弟」の「弟」は「悌」に作る本もあった(釈文)。

「好犯上」の「好」は去声(釈文)。

「鮮矣」の「鮮」は上声(釈文)。

「本與」の「與」は平声(釈文)。

『論語』に見える孔子の弟子のうち、有若と曾参のみが、「子」を添えて「有子」「曾子」と呼ばれています。このことから、『論語』は孔子の弟子ではなく、有若・曾参の弟子が編纂したものでないか、との説が古くからあります。程頤『経説』など(程樹徳『論語集解』を参照)。

03 子曰:「巧言令色,鮮矣仁。」

Zi3 yue1: “Qiao3yan2 ling4se4, xian3 yi3 ren2”.

「巧言令色」は「指用動聴之言和諂媚之態取悦於人」(『辞源』)。『辞源』は書証として、『尚書』皋陶謨と『論語』のこの部分とを挙げています。

「令」は『釈文』によると平声(ling2)ですが、『新華字典』『辞源』では去声で読ませています。これに従います。

「鮮矣仁」の「鮮」は上声(釈文)。

04 曾子曰:「吾日三省吾身。為人謀而不忠乎?與朋友交而不信乎?傳不習乎?」

Zeng1zi3 yue1: “Wu2 ri4 san1xing3 wu2 shen1. Wei4 ren2 mou2 er2 bu4 zhong1 hu1? Yu3 peng2you3 jiao1 er2 bu4 xin4 hu1? Chuan2 bu4 xi2 hu1?”

「曾子」は、孔子の弟子の曾參(Zeng1 Shen1、そうしん)。

「曾」は精母の読み(zeng1)と従母の読み(ceng2)とがありますが、ここは「姓」ですから前者。

「參」は『新華字典』に、can1, shen1, cen1と、三つ音が並びますが、ここは第二の音で読んでおきます。厳密に言うと、「釈文」には「所金反(shen1)」「七南反(cen1)」という二つの反切を挙げますので、 二通りの読みが六世紀頃にあったことになりますが、「釈文」の第一の読みに従います。

「三」についても「釈文」は「息暫反(san4)」と「如字(san1)」の二つの読みを挙げます。ただ、現在は一般に去声(san4)の読みは使わないので(『辞源』)、普通に平声で読んでおきます。

「省」は「悉井反(xing3)」(釈文)。

「為人謀」は「釈文」に去声の読み「于偽反(wei4)」と「如字(wei2)」とを載せますが、ここは前者に従います。

「傳不習」の「傳」は平声(chuan2)、(釈文)。

05 子曰:「道千乘之國,敬事而信,節用而愛人,使民以時。」

Zi3 yue1: “Dao3 qian1sheng4 zhi1 guo2, jing4 shi4 er2 xin4, jie2 yong4 er2 ai4 ren2, shi4 min2 yi3 shi2”.

「道」は「音導」(釈文)。

「千乘」の「乘」は去声(釈文)。『新華字典』でいうと、第2の音の第2義「量词,古代用于四匹马拉的兵车」に当たり、そこに例として「千乘之国」が挙げられています。

06 子曰:「弟子入則孝,出則弟,謹而信,泛愛衆而親仁。行有餘力,則以學文。」

Zi3 yue1: “Di4zi3 ru4 ze2 xiao4, chu1 ze2 di4, jin3 er2 xin4, fan4 ai4 zhong4 er2 qin1 ren2. Xing4 you3 yu2li4, ze2 yi3 xue2 wen2”.

「弟」は「音悌」(釈文)。

「行有餘力」の「行」は「下孟反(xing4)」。『辞源』にも載っている音ですから、ここではこれに従いますが、『千字文』の「景行維賢,克念作聖」に見ましたように、”xing2″と読まれても結構です*1。

*1:なぜ同じ意味の音なのに、『千字文』と『論語』とで読みを違えるのか?それは、この「文言基礎」の方針によります。『千字文』を学んだときは、「できるだけ『新華字典』に載っている音で読む」方針でした。一方、今回の『論語』は、できるだけ『経典釈文』の読みに従いたいと思います。それで、このような差が生じます。

07 子夏曰:「賢賢易色,事父母能竭其力,事君能致其身,與朋友交言而有信。雖曰未學,吾必謂之學矣。」

Zi3xia4 yue1: “Xian2 xian2 yi4 se4, shi4 fu4mu3 neng2 jie2 qi2 li4, shi4 jun1 neng2 zhi4 qi2 shen1, yu3 peng2you3 jiao1 yan2 er2 you3 xin4. Sui1 yue1 wei4 xue2, wu2 bi4 wei4 zhi1 xue2 yi3”.

「子夏」、孔子の弟子、卜商。

「事父母」「事君」「與朋友交」という人生の三つの人間関係におけるふるまいかたを述べたものです。

08 子曰:「君子不重則不威,學則不固。主忠信,無友不如己者,過則勿憚改。」

Zi3 yue1: “Jun1zi3 bu4 zhong4 ze2 bu4 wei1, xue2 ze2 bu4 gu4. Zhu3 zhong1xin4, wu2 you3 bu4 ru2 ji3 zhe3, guo4 ze2 wu4 dan4 gai3”.

「不重則不威」の「重」は去声。

「無友」の「無」は、釈文本は「毋」に作る。『新華字典』によると「毋」は「副词,不要,不可以」。

09 曾子曰:「慎終追遠,民德歸厚矣。」

Zeng1zi3 yue1: “Shen4 zhong1 zhui1 yuan3, min2de2 gui1 hou4 yi3”.

「慎終追遠」、『辞源』は「慎終追遠」という項目を立て、『論語』のこの部分を引いて、「謂對父母的喪事,要辦的勤慎合理,先祖雖遠,須依禮追祭」と説明しています。

10 子禽問於子貢曰:「夫子至於是邦也,必聞其政,求之與?抑與之與?」子貢曰:「夫子温、良、恭、儉、讓以得之。夫子之求之也,其諸異乎人之求之與」。

Zi3qin2 wen4 yu2 Zi3gong4 yue1: “Fu1zi3 zhi4 yu2 shi4 bang1 ye3, bi4 wen2 qi2 zheng4, qiu2 zhi1 yu2? Yi4 yu3 zhi1 yu2?” Zi3gong4 yue1: “Fu1zi3 wen1, liang2, gong1, jian3, rang4 yi3 de2 zhi1. Fu1zi3 zhi1 qiu2 zhi1 ye3, qi2 zhu1 yi4 hu1 ren2 zhi1 qiu2 zhi1 yu2”.

「子禽」「子貢」は、ともに孔子の弟子。

「求之與」「抑與之與」「異乎人之求之與」の「與」のうち、文末に置く「與」はともに平声(助詞)。「歟」に通じる(釈文)。「抑與」の「與」は上声(動詞)。

「抑與之與」の「抑」は、『新華字典』の第2義に「文言连词。1.表选择,还是」とあり、まさに「求之欤,抑与欤?」の例が挙がっています。

「夫子」は『辞源』の第2義に「論語中孔丘門徒尊稱孔丘為夫子,後遂成為對老師的專稱」とあります。

「温、良、恭、儉、讓」は孔子の備えていたという五つの美徳。

11 子曰:「父在觀其志。父沒觀其行。三年無改於父之道,可謂孝矣。」

Zi3 yue1: “Fu4 zai4 guan1 qi2 zhi4. Fu4 mo4 guan1 qi2 xing4. San1nian2 wu2 gai3 yu2 fu4 zhi1 dao4, ke3 wei4 xiao4 yi3”.

「父沒」の「沒」は、文言では「莫勃切(mo4)」の音で読み、”mei2″の音は使いません。『新華字典』で言うと、”mo4″の音の第5義に「同”歿”」とあり、「歿」に「死」とあります。

「父在觀其志。父沒觀其行」の二句は、素朴な対の形を成しています。

12 有子曰:「禮之用,和為貴。先王之道斯為美,小大由之。有所不行,知和而和。不以禮節之,亦不可行也。」

You3zi3 yue1: “Li3 zhi1 yong4, he2 wei2 gui4. Xian1wang2 zhi1 dao4 si1 wei2 mei3, xiao3da4 you2 zhi1. You3 suo3 bu4 xing2, zhi1 he2 er2 he2. Bu4 yi3 li3 jie2 zhi1, yi4 bu4 ke3 xing2 ye3”.

有若が「和」を説いたものです。「先王之道斯為美,小大由之」の「斯」「之」はともに「和」を指す代名詞です。

「和」は、3カ所現れますが、名詞として2カ所、動詞として1カ所用いられています(「而和」の「和」)。

13 有子曰:「信近於義,言可復也。恭近於禮,遠恥辱也。因不失其親,亦可宗也。」

You3zi3 yue1: “Xin4 jin4 yu2 yi4, yan2 ke3 fu4 ye3. Gong1 jin4 yu2 li3, yuan3 chi3ru3 ye3. Yin1 bu4 shi1 qi2 qin1, yi4 ke3 zong1 ye3”.

これも有若のことば。

「信近於義」の「近」は、中古音では、上声(「其謹切」、近い意)と去声(「巨靳切」、近づくの意)とで読み分けました(『広韻』)。「釈文」では、「附近之近」といい、さらに「又如字」といいますから、去声の読みを第一に、上声の読みを第二として挙げている事が分かります。

状態として「近い」のか、行動をして「近づく」のか?いずれの読みをとるにせよ、現在では”jin4″と読みますから、結果的に読みに影響しませんが、中古では区別がありました。

14 子曰:「君子食無求飽,居無求安,敏於事而慎於言,就有道而正焉,可謂好學也已。」

Zi3 yue1: “Jun1zi3 shi2 wu2 qiu2 bao3, ju1 wu2 qiu2 an1, min3 yu2 shi4 er2 shen4 yu2 yan2, jiu4 you3dao4 er2 zheng4 yan1, ke3 wei4 hao4xue2 ye3 yi3”.

孔子が、望ましい人間、「君子」の生き方を説いたもの。

「有道」は、『辞源』で調べると、第1義に「有道德,才藝的人」とあり、『論語』のこの部分と、『周禮』春官、大司樂「凡有道有德者,使教焉」を引きます。

「好學」の「好」は動詞(去声で読む)。

15 子貢曰:「貧而無諂,富而無驕,何如?」子曰:「可也。未若貧而樂,富而好禮者也。」子貢曰:「《詩》云:『如切如磋,如琢如磨』,其斯之謂與?」子曰:「賜也,始可與言《詩》已矣!告諸往而知來者。」

Zi3gong4 yue1: “Pin2 er2 wu2 chan3, fu4 er2 wu2 jiao1, he2ru2?” Zi3 yue1: “Ke3 ye3. Wei4 ruo4 pin2 er2 le4, fu4 er2 hao4 li3 zhe3 ye3”. Zi3gong4 yue1: “Shi1 yun2: ‘Ru2 qie1 ru2 cuo1, ru2 zhuo1 ru2 mo2’, qi2 si1 zhi1 wei4 yu2?” Zi3 yue1: “Ci4 ye3, shi3 ke3 yu3 yan2 shi1 yi3 yi3! Gao4 zhu1 wang3 er2 zhi1 lai2 zhe3”.

子貢(名は賜)と孔子の問答。

「貧而樂」の「樂」は、「釈文」に「音洛」とあり、「洛」「樂」ともに『広韻』では「盧各切」。

「富而好禮」の「好」は去声。

「其斯之謂與」の「與」は、「音餘」(陽平)。

「始可與言《詩》已矣」の「與」は、上声。

子貢が引用した詩は、『詩経』衛風「淇奧」の詩です。孔子の学園における古典学習の様子がうかがわれる一節です。

16 子曰:「不患人之不己知,患不知人也。」

Zi3 yue1: “Bu4 huan4 ren2 zhi1 bu4 ji3 zhi1, huan4 bu4 zhi1 ren2 ye3”.

古い時代の文言では、「動詞+代名詞」を否定の副詞で打ち消す場合、倒置して「否定副詞+代名詞+動詞」の形にしました。「不我愛」「不我信」「弗之知」など。ここでも「不知己」ではなく「不己知」としてあります。

「患不知人也」の一句は、「釈文」が依拠した本では「患不知也」と作っていたそうです。さらに「患己不知人也」とくだくだしく言う本もあったと指摘し、それは「俗本」であるといって退けます。

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『論語』学而篇が暗誦が終了しました。みなさん、暗誦はいかがでしたか?

今回は、『新華字典』で意味を調べることより、なめらかに読み上げ、暗誦できるかどうか、に難しさがあったと思います。まだ自信の持てない方は、繰り返し練習してみて下さい。練習すれば、必ずできるようになります。そして、できたことこそが自信になるはずです。

練習のコツを少々。

まず、一つの節を20回、読み上げて下さい。本文を見ながらで結構です。以下の点に気をつけます。

  • ゆっくり、読み上げる。
  • 区切りを意識して、読み上げる。
  • 平板にならないよう、抑揚(強弱)をつけて、読み上げる。

すべて四字句でできている『千字文』は、平板に読んでもよいのですが(ある程度、平板にならざるを得ない部分があります)、散文、特に会話を再構成した『論語』のような文については、抑揚が大切であると思います。

20回、読み上げたところで、本文を見ずに暗誦できるかどうか、確認します。もし出来ない場合は、さらに20回、練習します。

どんな難しいものでも、たいてい、合わせて50回、練習すれば、覚えられるものです(年齢、経験を問わず。但し現代中国語を習得していることが条件)。『千字文』と『論語』学而篇を不都合なく暗誦できれば、暗誦にともなう困難はかなり軽減できるはずです。後は自分の覚えたいものを覚えてゆけばよいでしょう。できることなら、時間を確保して持続的に新しいものを覚えてゆくのが理想です。

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